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「劇場アニメ最前線」片渕須直、神山健治、瀬下寛之が今後の挑戦を明かす

2016年10月29日(土)、東京・神楽座にて、第13回文化庁映画週間の一環として、映画文化の最新動向を紹介するシンポジウムが開催された。今年のテーマは「アニメと映画」。「劇場アニメ最前線~君は映画を信じるか」と題された本シンポジウムの第一部では、アニメ映画の第一線で活躍するクリエイターをゲストとして招き議論が交わされた。

登壇したのは、『アリーテ姫』(2001年)や『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)の監督を務め、今年11月に新作劇場アニメ『この世界の片隅に』の公開を控えた片渕須直監督、TVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ(2002・2004年)や『東のエデン』シリーズ(2009-2010年)の監督を務め、現在は新作『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』三部作(2016年)の公開を間近に控え、また2017年3月に公開予定の『ひるね姫~知らないワタシの物語~』を制作中の神山健治監督、セルルック3DCGアニメ『亜人』三部作(2016年)やTVアニメ『シドニアの騎士』シリーズ(2014-2015年)で監督等を務め、現在は新作『BLAME!』を制作中の瀬下寛之監督、そしてモデレーターとして井上伸一郎の4名。それぞれのアニメーションへの取り組みを通して、日本映画の未来への展望が語られた。


まず、井上から3名それぞれの映画の原体験は何だったかという質問が。
片渕は、祖父が映画館を経営していたため、幼少の頃から映画に親しんでいたと語り、2歳のときに『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)を観たことを覚えているという。特に月岡貞夫と大塚康生が作画を担当したクライマックスのシーンが記憶に残ったが、その後、月岡貞夫には大学の映画学科で学び、業界に入ったときの先輩に大塚康生がいた、と不思議な縁を語った。
中学生のときに『スターウォーズ』と『機動戦士ガンダム』に出会ったと語るのは神山。そこから『スターウォーズ』のような日本アニメを作りたいと思い、アニメ業界を志すようになったという。同じく小学生のころに『スターウォーズ』やスピルバーグ映画が華やかだった時代を過ごした瀬下は、池袋の近くに住んでたこともあり文芸坐に通うようになり、将来は映像の仕事をしたいと思うようになったという。

つづくパートでは、3人それぞれの新作映画の予告編を上映した後、1人ずつ各々の新作について語った。
最初に登壇したのは片渕監督。新作『この世界の片隅に』では日常の何気ない動作や登場人物の実在感を重視したという。そのために、なるべくアニメ的な記号性を排し、またいまはなくなってしまった当時の風景を資料をもとに忠実に再現して描いたと語った。「画面に出てくる家を一軒一軒調べて描いた」と語りそのための緻密な資料を披瀝すると、会場からは感嘆の声が。さらに、井上が今作の同時代性について指摘すると、「戦争や空襲というと遠い昔の話に思えるけど、実は自分たちが生きているいまの世界と地つづきであることを感じてほしい」と述べた。

つづいては神山監督。まず井上が女子高生を主人公にしファンタジー要素もある新作『ひるね姫』について、これまで神山監督というとハードなSFや社会派的なテーマを盛り込んだ作風のイメージがあったという話を振ると、神山は3・11の震災以前と以降でアニメ制作に対する心境が変わってしまったとその原因を語った。これまで自分は、世界や人々を救う物語を数多く作ってきたけど、実際に震災が起こってしまうと、現実のなかでは救えないという無力感に打ちのめされたのだという。そんな折、日本テレビのプロデューサーから「次は自分の娘に見せるような映画を作ったらどうだ」という話をもらったことが、『ひるね姫』の構想のきっかけとなった。「はじめて個人的な動機で映画を作りはじめて、でもそこに自分なりのメッセージを入れたのでぜひ観てほしい」と今作にかける意気ごみを述べた。
同時に、同じく神山が監督を務める『サイボーグ009』シリーズの新作『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』についても語られた。前作『009 RE:CYBORG』のコンセプトは、『サイボーグ009』をリメイクするにあたってもう一度リセットできないかというもの。ただ、いままでの『009』をなかったことにはしたくない、そのためすべての戦いが歴史のなかにあったものとしたうえで、009たちが新たな戦いに挑んでいくというコンセプトに今作では挑戦したと語った。

最後に登壇したのは瀬下監督。映画、TVCM、ゲーム映像等、様々な分野のCGやVFX映像の制作に長年携わってきた瀬下は、3人のなかではやや異色のキャリアの持ち主。まず、井上から現在の日本アニメにおける3DCGのトレンドであるセル ルック3DCGについての話題が振られた。それに対し瀬下は、自分も世界に誇れる日本の手描きアニメにリスペクトと憧れを持っていたので、日本アニメで何かチャレンジできないか思いセルルックで『シドニアの騎士』を作り、さらにその発展形として『BLAME!』をはじめたところがあると答えた。一方で、日本のマンガやアメリカのグラフィック・ノベル、フランスのバンド・デシネのルックをアニメーションとして動かしたいという意識があることも明かした。たとえば、大友克洋やメビウスの作品に見られる表面に傷や埃をつけるタッチを、『亜人』や最新作『BLAME!』でも再現しようと試みているという。さらに、つねに技術と寄り添いながらクリエイティブを生み出していくのがCGの基本姿勢と語る瀬下は、『亜人』からモーションキャプチャを本格的に導入。それにより記号的ではない、日常感のある芝居が可能となったという。

その後、再度一同が登壇してのトークが交わされた。井上は3人それぞれアプローチは異なるけれど、日常性を目指している点では方向性は同じなのではないかと指摘。それに対して、片渕は技術や方法論は違うけれど考え方は共通していると同意を示し、神山は『ひるね姫』は元ヤンキーの父親や女子高生といった普段アニメーターが接する機会のないキャラクターの日常芝居を表現することのむずかしさについて触れつつ、しかしあえてそこにこだわることの大切さを語った。

最後に井上から「今年は『君の名は。』『シンゴジラ』など、アニメ映画やアニメ方面の人材が日本の映画界を牽引した1年だったけれども、これは今年だけの特異な現象にとどまらないのではないか。宮﨑駿が新作を作らなくなった代わりに、新しい才能をアニメファンや映画ファンがどんどん発見している時代。そうなると、この現象は今年だけではなくて来年以降もつづいていくのだと思います」と今後のアニメ映画の展望が語られ、シンポジウムは盛況のうちに締めくくられた。

「劇場アニメ最前線」片渕須直、神山健治、瀬下寛之が今後の挑戦を明かす
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