2016年末、スペイン・バルセロナの安宿での話だ。貧乏旅行経験者ならお分かりだろうが、基本的に貧乏バックパッカーは「ドミトリールーム」と呼ばれる、1部屋に4~10人くらいまでを収容する大部屋に宿泊する。
僕が数日間ほど宿泊していたのはアークハウスバルセロナというホステルであり、キッチンが狭く自炊が少々面倒だったものの(スペイン滞在中は基本的に自炊していた。せっかくのスペインなのに…)非常に清潔で、セキュリティもしっかりしていて過ごしやすい宿であった。 そんなある日。深夜3時ごろだろうか。ふと目が覚めた。 暗闇の中、端の方のベッドでゴゾゴソと動く音が聞こえる。目を凝らすと、寝ている誰かを揺らし起こそうとする一人の男の姿が見えた。何かを耳元で囁いている。 謎の男に揺り起こされた彼は、寝ぼけ声で「No」とつぶやいた。 次の行動として、謎の男は隣で眠る女性を揺らす。そして何かを囁く。いや、「囁く」というのは描写としては間違っていないのだが、正確には何かを訪ねていることは遠目からでも分かった。 女性も答える。 「No」 広いドミトリールームだったので、おおよそ12人程が寝ていたのではないだろうか。僕が寝ていた2つ先のベッドあたりで、男が何と訪ねているのかがハッキリ分かった。 「Do you have a condom?(コンドーム持ってる?) 」 それをこの時間にわざわざ人を起こして聞くのか…。 3人目、4人目、5人目…。 老若男女問わず、全員を順に起こし続ける謎の男。 ついに僕の番が来た…。 コンドームなんて持ってないよ…。渡したらここでコトを始めるというのか…?仮に持っていたとしても絶対に渡さねぇ…。 「Do you have a con....」 「No」 カレーの苦手なインド人もいれば、寿司の嫌いな日本人もいる。同じように、日本人からすると性に奔放とされる欧米人(この括り方も曖昧だが、今回は見逃していただきたい)にも、実際に奔放な人間と奔放ではない人間がいる。 しかし、彼は確実に前者であろう。 全員に無下なく断られた彼は、ベッド(彼のベッドは僕の隣だった!)に女性を連れ込み、行為には至っていなかったように感じられたものの、暗闇の中甘い吐息だけが聞こえてきた。 瞼を閉じ寝入ろうとするも、悶々としてなかなか寝付けなかった…。 海外旅行者から「ドミトリールームで欧米人が色々とはじめてさ…。辛かったよ」という嘆きを聞くことはしばしある。 そんな話をされると、わかるわかる、と思わず頷いてしまうのだ。
提供元:CycleStyle
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