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成長期に差しかかった中国のアニメビジネス ~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第2回「IPブームと著作権意識のギャップ」

成長期に差しかかった中国のアニメビジネス
~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第2回「IPブームと著作権意識のギャップ」
[増田弘道]

■民間企業が集うコンベンションセンターB
導線にしたがってコンベンションセンターAを抜けてBに入ると、こちらは一転してAnimeJapanに近いノリに変わる。中国の代表的な動漫企業や配信企業が出展しており、大ヒット中『熊出没』の華強方特(FANTAWILD)、ビリビリ動画、天聞角川、それにこちらにもブースを出しているテンセント動漫といった名前があって馴染み深い。日本からはテレビ東京や電通(『ユーリ!!! on ICE』『西遊記REROAD BLAST』)、ポケモンなどのガチャポンブースが出展。今年はネット系企業の存在感が去年にも増して大きくなっており、テンセントはもちろん、楽視網(ネット)、YouKu、網易(NetEase)やSNSゲーム系などのモニターやブースを数多く見かけた。

楽視網

広州天聞角川

テレビ東京

電通ブース


■翻翻動漫原作の日本製アニメ
B館1Fの出展企業の中において日本との関係でビジネス的に注目されるのは、ニュースの多いテンセントを除けば地元杭州の出版会社翻翻(ファンファン)動漫であろう。この会社に関しては昨年レポートしたが、今年はよりパワーアップを遂げ日本との関係をより深いものにしていた。
写真は現在TOKYO MXで放送中の『兄に付ける薬はない(快把我哥帯走)』の原作者である幽・霊氏と制作会社であるファンワークスの高山社長である。今回筆者の誘いで初めて杭州動漫節cicaf2017に赴いた高山社長であるが、翻翻動漫から原作本を出版しサイン会をしていた著者に偶然遭遇したのである。サイン会場が行われたのはB館1F中央にある一番大きなイベントスペースであるが写真にあるように、沢山のファンが押し寄せ大盛況であった(幽・霊氏は本来双子姉妹であるがお姉さんは今回体調を崩したため欠席)。
また翻翻動漫に隣接したスペースでサイン会を行っていたのが台湾出身の彭傑氏。翻翻動漫発刊の雑誌「翻漫画」に連載中の『時間の支配者』の著者であるが、この作品、日本では集英社の「少年ジャンプ+」でも配信されており、アニメ化されて7月から放送されることが決まっている。制作会社は新進のproject No.9、シリーズ構成&脚本に横手美智子、声優陣には福山潤、石川界人、釘宮理恵という豪華キャストの「本格的日本製アニメ」であるが、このような動きを見ていると日中の連携が本格化していると感じざるを得ない。
翻翻動漫の沈社長は杭州にある名門浙江大学出身。九州大学大学院卒業後編集プロダクションで働きつつ集英社の知遇を得てマンガ制作の何たるかを知る。現在中国人作家の育成を積極的に行っているが、日本のマンガの強みである「編集」が持つ付加価値に注目、杭州の翻翻動漫本社には編集機能はもちろん、作家の宿舎を含め、個室の作業スペースやアシスタントが集う大部屋が整備されたうえに、スクリーニングルームやカフェ、健康管理のためのジムまで併設されている。今年から文京区に中国人作家のための「トキワ荘」を構え日本のマンガ雑誌連載を目指している。日本のポップカルチャーの大本であるマンガにダイレクトに切り込む翻翻動漫の動向がますます気になってきた。

ファンワークス高山社長

「兄に付ける薬はない!」原作者幽・霊氏

「時間の支配者」原作者彭傑氏

「時間の支配者」ポスター

■コンベンションホールB館2F以降のフロアーにある問題
相変わらずの問題であるのはB館2階以降にある海賊版物販ブースである。初期よりはかなり少なくなったとはいえ、現実的にB館2F3Fにはこの種の店が軒を連ねている。日本人の目から見ると官製イベントであるが故に余計奇異に映るのだが、おそらくは中国においては基本的な著作権認識が異なっているからであろう。ごく最近までテレビや映画などのコンテンツは政府(国家、省、市)予算でつくられていた。共産主義の建前としてもコンテンツは個人のものではなく人民が共有するものであり、即ち「みんなのもの」であったのだ。2010年代に入りようやく民間主導のクリエイティブ産業が開花し始めたのだが、製作当事者の間では著作権意識が高まったものの、それ以外の人々にとってはまだまだ「みんなのもの」であるようだ。

コンベンションB館

■IPがまだ腑に落ちていない
とここまで書いたが、実は当事者であっても著作権という概念が浸透していないのではないかという疑問がある。昨年「IPブームに沸く 劇的に変化する中国のアニメーション産業」というタイトルで記事を書かせてもらったが、どうもIPを連呼する割には守るべき著作権意識が身についていないように感じた 。誤解をおそれずに言えば遵守すべき人格権要素が目に入っておらず、財産権にしか目が行っていないのではないか。要するに不動産と同じ感覚である。それは強く感じたのはコンベンションホール全体を通じて展示にコピーライツ表記があったのが、私が見る限り一カ所だけだったこと(見落としているとは思うが)。いわゆる「(C)マルシーマーク」がないと不安に感じる日本人的心性なのかもしれないが、あれだけIPを言いながらコピーライツがないというのは不思議に感じる。唯一(と思われるが)それがあったブースは何てことはない「ぴえろチャイナ」のものであった。IPは儲かるものという認識は少しも構わないが、まだまだ国際的な標準著作権意識から距離があるとに思えた。

ぴえろチャイナブース

■ますます活発の様相を呈しているビジネス活動
3年間のブランクを経て昨年から再度参加するようになって一番感じたのはビジネス活動が盛んになっていたことである。2009年最初に訪れたときにはほとんどなかった動きである。そのビジネスに直結する一連の活動を称してiABC (The International Animation Business Conference) と呼んでいるが、こちらは2010年まで会場だった杭州休博園に隣接している第一世界飯店で行われている。メイン会場の白馬湖畔にある建国飯店では基調講演やサミットなどが開催されたが、ビジネス関連は第一世界飯店に集中していた。そこでは企画のピッチングやマッチングなど多くのセッションが行われ、国内企業はもちろん、カナダやイギリスなどの海外企業からのプレゼンも行われた。
時間の都合で参加できなかったが、興味深かったのはfacebookやGoogleがプレゼンを行っていたということである。承知のことと思うが、中国においてはGoogleをはじめとしfacebookやTwitter、LINEなどの海外のコミュニケーションネットやツールは遮断され使えない。そんな海外企業が中国の、それもアニメフェアで何を語るのかを聞けなかったのは残念である。最近ネットフリックスと中国大手動画配信サイト愛奇藝(iQIYI.COM)との提携が発表されたが、Googleやfacebookも当然中国市場での可能性を追求していることであろう。現在アニメのワールドワイド市場は国内、中国、それにネットフリックやAmazonによって三分化されるといった様相を呈しているが、中国とネットフリックやAmazonなどと提携が進めば、日本とそれ以外に二分化されるという状況が現れるかもしれない。

ビジネスプレゼン

テンセントプレゼン

テンセント一人之下

■中国最大の製作会社華策影視
今回の杭州訪問で訪れた会社が二つある。一つは昨年に引き続き翻翻動漫、もう一つは華策影視(浙江華策影視股&#20221有限公司) である。翻翻については既述したので省くが、後者は中国最大の映画、ドラマ製作会社である。2005年に設立、2010年には上場し、2016年売上は前年比67%増の44.41億人民元(724億円/1元=16.3円)と急上昇、時価総額209億人民元(約3,405億円)という、今や中国の業界で華策影視の名を知らない人間はいないというレベルに達している。今回その華策影視を訪れるきっかけとなったのは、知り合いの中国人女性が昨年杭州に戻りこの会社で働くようになったためである。聞けば映画とドラマ主体の製作会社であるものの、最近アニメに興味を示しているとのこと。といった事情で今回訪問することになった次第である。
日本では馴染みが薄い華策影視はであるが、映画畑の人間であれば2016年カンヌ映画祭で監督賞を獲った侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の『黒衣の刺客』の製作に名を連ねていると言えば少しは思い当たるかもしれない。さらには川村元気『億男』の原作権を獲得し、中国で実写化することが決まっているので、間もなく日本でもその名は広く知られるはず。
躍進著しい華策のその本領は、その製作規模にあるように思える。華策によると2016年に製作したドラマは25タイトル(*注2)で市場シェア業界トップの18%。2017年にはドラマの制作話数が1,000話を超えるとの予測を立てている。視聴率トップ10に4作がランクイン、ネットストリーミング再生回数トップ10に3作がランクインしている。
映画に関しては2016年に投資並びに配給した映画が14本で興行収入が20億人民元(約330億円)であったが、配給機能だけではなく映画館も所有しており、直営館で30、系列館で70ほどあるとのこと。映画やドラマは基本的にセルフファイナンスもしくは共同製作で製作費を捻出し、映画に関しては興業とネットへのセールス、ドラマに関してはテレビ局とネ ットにセールスすることで回収するという形を取っている。ちなみにドラマの予算はトップクラスのもので300万人民元(4,890万円)、映画で2~3億人民元(33~49億円)だそうであるが、今更ながらではあるが日本と大きな差ができていることを実感した。
注2「華策が製作したドラマは25タイトル」:中国ではネット向けの番組が数多く製作されているため、ドラマは必ずしもテレビドラマを意味しない。

華策衛視

■目指すはエンターテイメント・コングロマリット
今回華策を取材して日本では見られないスケールを感じたが、それは彼らの目指すところが通常の制作プロダクションとはかなり異なっているからであろう。代表の趙依芳氏は中国のエンターテイメント界でも異色と思える広電総局出身の女性である。それもあってか仕事ぶりはかなり猛烈とのこと。朝の7時からアポイントメントを入れ、夜は0時過ぎまで会議があることもしばしば。この仕事のスタイルはエンターテイメントというよりは実業界のパワーエリート風である。
実際華策は映画、ドラマの製作に留まる気持ちはサラサラ無いようで、最終的にはエンターテイメント・コングロマリットを目指しているようだ。現在も映画、ドラマ製作以外に、配給、劇場経営、タレントエージェントの他に浙江伝媒華策映画学院という学校も経営している。そして目下華策が全力で取り組んでいるのが現在の地からそれほど遠くないところに建設中の新社屋プロジェクト。新社屋といっても12万平方メートルの敷地の中にある13階立のビルなのだが、華策のみならず、文化・エンタテイメント系の会社を集積、制作スタジオや編集室などの設備を揃え、さらに映画館や劇場、国際的な会議場まであるという巨大文化施設である。「中国(浙江)影視産業国際合作実験区」の「コンテンツ国際提携実験リゾート」と呼ばれるこの施設、所有は行政だが運営は華策に任されており、そのPRも積極的に行っている。5月23日(火)から中国初のMIPCHINAが杭州で開催されるが、その時に海外からの関係者に対して建設がはじまった新社屋の土地のお披露目がなされるそうである。2018年オープンとのことなので、来年訪問した際にはぜひ視察してみたいと思っている。

■華策が目指すアニメビジネス
そんな華策がいまアニメビジネスを目指している。今まで彼らにはマンガやアニメ、ゲームといったポップカルチャー系に対する指向性はほとんどなかった。しかしながら、ディズニーを見るまでもなく総合的なエンタテイメントを目指すならばアニメジャンル抜きではできない。それもあってかここに来て急激に興味を示しはじめているとのことで、今までアニメに関心を示さなかった趙依芳代表が今年初めてAnimeJapanを訪れ、部下に対し矢継ぎ早に様々な指示を与えたという。そんな彼らのアニメにおける戦略は以下の四つである。

1.劇場アニメ製作(中国制作、日本制作どちらでも可)
2.人気アニメの実写化
3.人気IPのリメイク
4.ゲーム、テーマパークなどを含めた総合的な展開

以上であるが、華策は結局ディズニーのような総合エンタテイメント企業を目指しているのではないかと思われる。中国には世界最高の劇場チェーンを所有し、レジェンダリー・ピクチャーズも買収したワンダ(大連万達グループ)があるが、そのメイン事業は不動産である。スケールは遙かに違うものの、エンタテイメント事業を基軸として華策が急速に追い上げる可能性はあるように思える。ワンダの代表は元人民解放軍、華策の代表は元広電総局と共にエンタメ界の出身ではない。だからこそそれぞれ不動産、エンタメの枠にとらわれない壮大なスケールの事業を考えられるのではないだろうか。

第3回に続く

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]

成長期に差しかかった中国のアニメビジネス ~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第2回「IPブームと著作権意識のギャップ」
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