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【THE REAL】戦後8校目の選手権連覇へ…星稜高校を輝かせるラッキーボーイが貫く母校愛

夢と希望を胸に抱いていた15歳の少年にとっては、残酷に響いた言葉だったはずだ。

「悪いけど、君のことは取れないよ」

2012年7月。愛知県内のクラブチーム、FCフェルボールでプレーしていた中学3年生の加藤貴也は、星稜高校の練習会に参加した後に河崎護監督から不合格を告げられた。

■こういう集団のなかで高校サッカーがしたい

練習会とは、要はセレクションのこと。それでもあきらめ切れず、9月に再び練習会に臨むも河崎監督から同じ言葉をかけられる。失意のなかで、練習試合をしていた星稜のミーティングを偶然にも間近で聞いた。

星稜へ抱いてきた憧憬の思いが、抑えきれないほど大きくなるのを加藤は感じた。

「プレーのレベルもそうですけど、レベルの高い要求を言い合っていた。こういう集団のなかで高校サッカーがしたい、という思いがさらに強くなったんです」

京都サンガのユースのセレクションを受けるも、吉報は届かなかった。GK楢崎正剛(名古屋グランパス)らを輩出した奈良育英(奈良)も志望校のひとつにあげたが、自分に合っていないと最終的に判断した。

7歳上の兄が全国高校選手権出場も果たした、地元愛知の中京大中京への進学も考えたことがある。それでも、星稜のユニフォームを着てプレーする自分の姿が、最後には必ず脳裏に浮かんだ。

残された道は一般入試で入学すること。加藤の決意は、年が明けた2013年1月3日、愛知からわざわざ上京して向かった駒沢陸上競技場のスタンドで揺るぎないものとなる。

目の前では星稜が、全国大会の常連でもある青森山田(青森)に2対0で快勝していた。

「入学試験が2月1日だったんですけど、さらに受験勉強に熱が入りました」

■憧れの星稜サッカー部へ

結果はサクラサク。生まれ育った愛知県春日井市から石川県金沢市へ移り、憧れてきた星稜サッカー部の門を叩いた。果たして、セレクションで2度落とした中学生を河崎監督はしっかり覚えていた。

「加藤、と名前で呼ばれましたから」

もっとも、星稜には県内はもちろんのこと、県外からもセレクションを経た実力者たちが集ってくる。Jクラブ傘下のユースチームへの昇格がかなわず、ゼロからのスタートとして星稜を選ぶテクニシャンも少なくない。

軽く100人を超える大所帯のなかで、加藤は2年生までメンバーに名前を連ねることができなかった。その間、ゴールキーパーとセンターバックを除くほとんどのポジションを経験した。

「新人戦で優勝した後に悪ふざけをしたら、一番下のチームに落とされたこともありました。サッカーというよりは、監督のもとで人間性の部分を鍛えられました」

迎えた最後の年。2014年末に遭った交通事故の影響で河崎監督の不在が続くなかで、加藤はサイドバックの控えを務めていた。昨年9月に指揮官が復帰し、全国選手権出場をかけた県大会が始まっても状況は変わらない。

それでも、加藤は不断の努力を惜しまなかった。入学する前から、星稜のことは何でも知っていたからだ。

「監督は絶対にチャンスをくれる。僕が中学3年生のときも、県大会では起用していなかった選手が全国大会でプレーしている姿を見ていたので」
■突然のコンバート

順当に17年連続26度目の選手権出場を勝ち取り、登録メンバー発表を1週間後に控えた昨年12月のある日。加藤に突然のターニングポイントが訪れる。

「お前、フォワードをやってみろ」

紅白戦の途中に呼び出され、河崎監督から告げられたのは青天の霹靂にも映る最前線へのコンバート。小学生や中学校のときに経験したことがあるが、身長が166cmのいま現在では考えたこともない。

戸惑いと武者震いとを交錯させながら、加藤は記憶の糸を必死に手繰り寄せた。

「僕はけっこう怒られることが多かったので、また何かやっちゃったのかなと思って行ったんですけど。練習などで監督がフォワードの選手に与える指示を聞いていたので。こう動けばいいんだ、というのは何となく頭のなかにありました」

河崎監督自身も、2年ぶりに采配を振るう全国大会を勝ち抜くための武器を必死に探していた。9カ月あまりのブランクを経て、練習の指揮を執ったチームを河崎監督は星稜を「お子ちゃまチーム」と命名している。

「自分勝手なプレーばかりしていたんですよ。1年前にやっと(全国優勝することが)できたチームが、半年くらいでこんなにも変貌しているのかと。とにかくビックリしました」

4試合で23得点、無失点の貫禄勝ちで全国切符こそ手にしたが、30年を超える指導者人生で培った経験値が、現状のままでは選手権では通用しないと告げる。足りないピースを、河崎監督はフォワードに求めた。

「県大会はボールの収まらない、不器用なフォワードで戦いました。でも、全国大会モードにな ると、前から相手を追いかけないとロングボールを蹴られてしまう。ならば、貪欲に追いかけられるプレーヤーは誰だと探していたら、あの小さな加藤の動きが一番よかったんですね。12月に入ってからは、加藤が僕のなかではほぼレギュラーとなりました」

【星稜高校を輝かせるラッキーボーイが貫く母校愛 続く】

■瞬発力、献身的な心、スタミナ

50m走の記録は6秒9と決して速くはない。むしろ鈍足の範疇に入る。身長もフォワードでは超のつくほどの小柄。しかしながら、加藤の体に相手との間合いを一瞬で詰める瞬発力と、チームのために身を粉にして走り回れる献身的な心、そして無尽蔵のスタミナが搭載されていた。

河崎監督から具体的な指示はない。それでも、他の選手に対して飛ばした檄から、急造フォワードである自分が率先して務めるべき役割が伝わってくる。

「加藤くらい走れ、と言っているのを聞いたんです。運動量だけが評価されていると思うので、毎日早く寝て、疲れを残さないようにしています。少しでも走れなかったら、サボっていると言われてレギュラーを外されると思っているので」

かくしてレギュラーが背負うには大きすぎる「25」番をつけた、DF登録のスポーツ刈り姿の異色フォワードが誕生。今大会の緒戦となった、1月2日の玉野光南(岡山)との2回戦で先発を果たした。

同じく運動量を武器すると大倉尚勲(3年)と組んだ、県大会とはまったく異なるツートップがチームに与える効果はてき面だった。攻守を司るボランチの大橋滉平(3年)が、玉野光南戦後にこう声を弾ませている。

「前半は相手に蹴られることが多かったんですけど、後半はしっかりとプレッシングをかけて、相手に自由にボールを蹴らせなかった。相手が疲れてきた時間帯でもウチのフォワードはしっかりと走って、相手のロングボールがタッチラインに反れることが多かった。そこはすごくありがたいと思っていました」
しかも、加藤はプラスアルファまで星稜にもたらす。1対1で迎えた後半33分。ドリブルで攻め上がってきた大橋とワンツーを成功させた加藤は、そのままゴール前のニアサイドへダッシュ。大橋のスルーパスを受けたMF根来悠太からのクロスを、右足で押し込んだのだ。

「ちゃんと足にヒットしていたら外れていたかも…。右足のインサイドで蹴ったらすぐに軸足か地面に当たって、すごい軌道でゴールに入ったんですけど、それも自分らしいかなと。たまたまキーパーのタイミングを外せて本当にラッキーでした。このチームで何の結果も出せていなかったので、ようやく貢献できた思いです」

ワンバウンドした末に不規則な回転がかかり、山なりでゴール右上に吸い込まれた決勝弾に、加藤は苦笑いを繰り返した。もっとも、殊勲の一撃は隠れた努力の賜物でもあった。

■YouTubeで研究をする

コンバートを命じられてから、サイズが近いフォワードのプレーをYouTubeで探しては研究した。最初は175cmのスペイン代表FWダビド・ビジャ。ちょっと身長が大きいと感じるや、2012年に横浜F・マリノスで「10」番を背負った170cmの小野裕二の動画を脳裏に焼きつけた。

「小野選手はあまり動画がなかったんですけど、頑張って探しました」

試合形式で行われたある日の練習中。対峙したボランチの選手に「お前の動き、ようわからんわ」とボヤかれたことで、むしろ手応えを得た。相手にとって、計算外の動きができるフォワードになりつつあると。

「自分はボールをもって何かをできる選手ではないので。味方がボールをもったときに裏へ走るとか、守備で走り回るとか、チームに貢献するために走り回っていきたい」

1点のリードを守り切った中京大中京との3回戦。そして、3ゴールを奪って快勝した明徳義塾(高知)との準々決勝。ともに無失点で80分間を終えた理由は、攻めてはスペースを狙い続け、守っては相手にプレッシャーをかけ続けた加藤の存在を抜きには語れない。

「チーム力からいえば、去年のチームと比べたら半分だと僕は思っている。個人の力がなさすぎなんですけど、それでも1試合1試合よくなっていくんですね」

首都圏開催となった1976年度以降では3校目となる4大会連続のベスト4進出から、3大会連続の決勝進出を経て、戦後では8校目となる選手権連覇へ。河崎監督が目を細める先には、一般入学組からあきらめることなくはい上がり、シンデレラボーイからチームに欠かせない最前線のダイナモへと一気に昇華した加藤がいる。
提供元:CycleStyle

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