完全京都オリジナルのキャラは今後、どうはばたく?~京都市交通局の挑戦~
京都市公共交通機関キャンペーンキャラクター誕生記 4万人を動員した京都国際マンガアニメフェア2014(以下、京まふ)だが、来場者、とりわけ京都市外から来たひとたちを軒並み驚かした「作品」が出展ゾーン外側のホールウェイに展示されていた。京都市交通局が打ち出している「地下鉄に乗るっキャンペーンキャラクター」たちだ。 もともとは2010年に「京都市地下鉄5万人増客推進本部」が設置された際に、若手職員により企画され、その家族により描き起こされたプロモーションキャラクター「太秦萌」(以下、初代太秦萌)が発端。当初は実験的な側面もあったが、好評だったということもあり、地下鉄の各駅に掲示され、京都市民には既におなじみになっていた。 だが、「京都市の作った萌えキャラの雰囲気が変わったね!」という噂が京都市内の若いひとたちから漏れ伝わってきたのが昨年の冬。だが、そこでは終わらなかった。 モチーフはオリジナルのそのままにデザインが刷新された太秦萌に続き、同じくデザインが刷新された「松賀咲」と「小野ミサ」が追加され、関連グッズも続々登場。更にこの春、太秦萌の従姉妹という設定の「太秦その」が京都学園大学イメージキャラクターとして生み出され、更につい先日、小野ミサの兄の同級生という設定の「烏丸ミユ」が京都国際マンガミュージアムのイメージキャラクターとして発表されることとなった。そして、京まふの際、フルカラーのアニメCMが満を持して初披露されたのだ。 そこで今回は、新生「太秦萌」のデザインから現在まで全てのコンテンツをプロデュースしてきた、GK京都の名倉剛志氏と、磯貝直紀氏から誕生秘話を伺った。 ―今回の展示ですが、反響はいかがでしょう? 名倉剛志氏(以下、名倉) クリアファイルを販売したのですが、すごく好評です。全体で900セットを準備したのですが、一日目で既に500枚ちかくを売ってしまいました。本日も同じペースなのでほぼ全部売り切れると思います。あと、「市営地下鉄1dayフリーチケット」も発売中で、これを京都市動物園に持って行くとクリアファイルと各駅で掲出中のポスターももらえるようになっているので、これも人気ですね。 ■ 一般の人にも魅力あるキャラクターになるように女性の声に耳を傾ける ―そもそも初代「太秦萌」がどのような経緯で新生太秦萌へと生まれ変わったのでしょう? 名倉 もともと「太秦萌」というキャラクターは京都市職員の家族の方がデザインしていたということもあって、デザイン会社に依頼して改めてデザインすれば活用方法も広がるのではという発想から、「太秦萌を活用した交通局のPRポスターデザイン」のコンペがおこなわれたので、私と磯貝でコンセプトから考えていき提案したところ、採択いただきました。 磯貝直紀氏(以下、磯貝) 2013年の8月位のことですね。 ―最初はどのような作業からはじめたのでしょうか? 名倉 まず最初のコンセプトを考えるうえで、どこをターゲットにしたらいいかを考え、まず社内でどの程度のキャラクターデザインがいいかアンケートをとったんです。 そうすると、いわゆる巷で流行っていると言われている肌の露出の多いキャラクターについては女性社員が思ったよりも「嫌悪感」を感じていたんです。 磯貝 なので、出来るだけ一般の人たちに受け入れるように敢えてコンサバなデザインにしました。でもそれが結構多くの方に気に入っていただいた理由になっていると思います。やはり「萌え萌え」でおしてしまうと、ユーザー層をかなり絞ってしまうと思うんです。やはり公共交通機関をプロモーションするキャラクターなので、出来るだけ幅広い層に受け入れられるデザインにしようということになりました。 ―候補としては萌え系のデザインも上がっていたんですか? 名倉 上がっていましたね。でも、私自身、麻痺してきているのでそれでも大丈夫と思ってしまうんですよ。そこを女性社員に指摘されて、より中庸なキャラクターへと調整したんです。公共交通機関なのでこの辺は大事にしました。 ―イラストレーターはどう決めましたか? 磯貝 様々なところで探したのですが、最終的にはイラストなどを共有できるソーシャルネットワークサイトPixivに辿り着きました。何人かのイラストレーターを選び、いくつかのイラストをピックアップし、アンケートを行ったりして最終的に選んだのが賀茂川さんです。 ■ イラストレーター、アニメスタジオ、声優---全てを京都にこだわってプロデュース。 名倉 京都で活躍されている方を出来るだけ使っていこうという方針があったんですが、ペンネームを見たとき、賀茂川だったので、もしやと思って連絡を入れると、 やはり京都出身だったんです。そこで、初代太秦萌のキャラクターをベースにデザイン描き起こしてもらいました。 ―すでにイラストレーターとしては著名だったんでしょうか? 磯貝 いくつかのコンクールで賞は取っていました。ただ、超有名だったわけではないように記憶しています。 名倉 実はもう一つ理由があって、賀茂川さんは以前、私の好きなミュージシャンのかせきさいだぁさんのアルバム『アニソング!! バケイション!』の特典ステッカーをデザインされていたことがあったんですが、そのデザインがとても良かったということもありました。 ―それぞれのキャラクターが明確にキャラ立ちしていますがどう決定していったんでしょう? 磯貝 太秦萌もそうですが、松賀咲や小野ミサも原画があったんです。その時点である程度のキャラ立ちはありました。ですので、髪の毛の色といった基本的なデザインについては原画を踏襲しました。 ただ、キャラクターの設定や性格を整理していく中で、3人は17歳で幼なじみで、地下鉄で高校に通うという点を共通認識にしました。また、キャラクターが持っているアイテムや服装なども変更していきデザインをリファインしていったのです。 名倉 細かい設定は我々のほうで作り込んでいったんです。バックストーリーなどもかなり細かく決定したうえで、賀茂川さんにデザインをお願いしました。 ―例えば? 磯貝 小野ミサですが、もともと黒髪にメガネという設定は原画にあったのでそれを大事にしながら、よりキャラが立つように、整理していきました。メガネも元はふつうのメガネだったんですが、それをアンダーリムのフレームにしたり、ちょこちょこアレンジをしています。 ―擬人化させたというわけでないですよね? 名倉 擬人化ではありません。ですが駅名が名前の一部となっているキャラクターなので、その場所に関連した何かをキャラクターに反映させてもいいなとは思っていたのですが、結局しっかりと出来たのは松賀咲だけでした。 磯貝 彼女の持っているスポーツバックのメーカーをパインスポーツとしているのですが、近所のスポーツショップがあるという設定で、この家系が戦国時代まで遡る歴史ある家系で、武将の末裔として武具を作っていたということにしました。 名倉 かつて、武具を作っていたように、現在の武具としてスポーツグッズをつくっているという設定です。ロゴも松の家紋をあしらったものにしているという設定なんです。 ―今回、京まふの第二会場にもなっている京都国際マンガミュージアムからはいつお話が来ましたか? 名倉 7月に話が来て、8月中に基本的設定とデザインを決定するという若干早いペースで進みました。担当の方からいただいた基本的設定を我々なりに噛み砕いて、最終的にデザインしていきました。 磯貝:もともとミュージアムにはマミューというキャラクターがいたので、それとの共通性をモチーフとして発展させました。頭の一部がペンのようになっているという点と、風呂敷を持っているという点などです。 ■ キャラクターの可能性を広げる鍵はコラボレーション ―太秦萌の家族も既にいるようですがこれらはどうしてきたいのでしょう? 名倉 個人的にはお父さんを何かで登場させてあげたいですね。ポスターがいいですねw ―CMはいつ頃から企画していたんですか? 名倉 昨年末くらいからですね。京都にある魚雷映蔵というスタジオがあったのでそこで話を調べてみると、かなりアニメをつくっているところだったのでお願いしました。3DCGも制作されているのですが、2Dアニメも制作されていたので2Dアニメでお願いしました。 磯貝:京都学園大学も、太秦そのを使ったPRアニメを展開しているんですが、それが3DCGを使っているので、差別化を測るうえでも完全2Dにしました。イラストレーターと同じくアニメも京都にあるスタジオということで京都にこだわっています。 ―読者のために今後の展望など教えてください。 名倉 ファンのみなさんにとっては、アニメ化がひとつの目標になると思っています。 磯貝 もともと、単純にプロモーションだけで終わらすつもりはありませんでした。また、今回声優魂さんで、それぞれのキャラクターを演じてもらう方を公募しました。また、魚雷映蔵さんも賀茂川さんもそうですが、街おこし的なことも考えながら地域の方を巻き込んでこのキャラクターを大切に育てていきたいと思っています。 名倉 来年までにはもうちょっと長尺のアニメが出来たらいいですね。あと、フィギュアとかも出来たら嬉しいです。これは一ファンとしての希望ですがw 磯貝 ですので、そういったフィギュアを制作されている方にご連絡いただいて、京まふ限定で販売するということが出来たら嬉しいです 。「コラボレーション」が鍵だと思います。京都市交通局様のキャラクターですが、交通局だけではできないことがあるという状況をむしろ逆手にとり、様々なコラボレーションをしていければ面白い展開があると思います。 ありがとうございました! インタビューを実施してから程なくして、数名のコスプレ姿をしたファン(サポーター)が、ブース前で集結。キャラクターが描かれたちらしの配布をはじめると、あっという間に人ごみが出来、京まふ参加者がこぞって写真撮影をはじめた。ここからも如何に来場者からの注目を集めているか分かる。 また、磯貝氏の「地域の方を巻き込んで」というコメントも注目に値する。事実、今年春には立命館大学映像学部が企業連携プログラムという授業の一環として、これらのキャラクターをテーマとした学食メニューを開発すると同時に、キャラクターを用いた京まふオリジナルプロモーション映像を制作した。これら大学側からの要請にも積極的に応じているのも、地域でキャラクターを育てたいという想いがあるからだろう。 また、京まふ会期中に実施された声優魂にて「発掘」された3人は全て近畿在住の一般中高生。それだけに、キャラクターとともにこれらの皆さんが声優としてどう育っていくのかにも要注目だ。 コンセプトメイキングから全ての要素が「京都で育んでいこう」という強い意志とともに生まれた太秦萌をはじめとしたキャラクター。来年の京まふにどういったサプライズを提供してくれるか、京都によるコンテンツプロデュース力がまさに試されていると言っても過言ではないだろう。 [参考URL] GK京都 http://www.gk-kyoto.com 魚雷映蔵 http://gyorai.net 賀茂川(イラストレーター) http://www.pixiv.net/member.php?id=4084485 “地下鉄に乗るっ”キャンペーン http://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/page/0000158989.html 太秦その http://www.kyotogakuen.ac.jp/campuslife/sono/
提供元:アニメ!アニメ!
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