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海外での映像化の道、パネルディスカッション「原作と契約」@TIFFCOMレポート

[細川洋平]

世界市場を視野に入れたコンテンツ展開の中で、原作の扱いや、国境を越えた契約というものは避けて通れないものだ。東京国際映画祭の開催と同時期にお台場で開催されているTIMM/TIFFCOMの『Japan Content Showcase 2014』において、まさにそのテーマを取り扱ったパネルディスカッションが行われた。
『原作と契約』と銘打たれたパネルディスカッションである。

登壇者は4名。映画制作会社やFacebookなどの日本での法務に携わっている弁護士であり、映画のプロデューサーも務めるルーカス・オリバー=フロスト氏(東京赤坂法律事務所)と、香港とシンガポールに拠点を持つゲートウェイ・コーポレーションで、映画ビジネスのコンテンツ及びプロデューサーとしてファイナンスに携わるマイケル・リャオ氏(Gateway Law Corporation)。日本のエンタテインメントビジネスにおける法務に携わる弁護士の照井勝氏(青山綜合法律事務所)と、漫画家・小説家などクリエイターのエージェントであるコルクの代表取締役副社長、寺田悠馬氏である。モデレーターはユニジャパンの村田千恵子氏が務めた。

■ 『チェーン・オブ・タイトル』を整理する

まず場に投げかけられたのテーマは『誰が作品の原作権を持っているのか』である。ルーカス氏は、原作に複数の人間/会社が関わっているような日本の作品の場合、権利保有者の特定が困難であるため、アメリカ側が交渉を諦めてしまう場合があると指摘した。
照井氏は、アメリカでは数十ページにわたる契約と同等のものが、日本では僅か数枚の文書で済んでいる現状を例えに出しつつ、日米での契約文書の物量の差、文書に対する文化的な意識が異なることに言及した。つまり逐一明文化する傾向にあるアメリカに対して、日本では文字よりも合意を重視するという文化の差異である。この差は国を契約を締結する際に国を大きく隔ててしまうこととなる。アメリカ側ははっきりとした根拠を持って、権利者を特定し、交渉に付くことができないのだ。

クリエイターのエージェントを務める寺井氏は原作権は作者が持っていると明言したが、ルーカス氏によると、ライセンス契約を希望している側が、どういった権利を欲しているのかを知る必要があると語った。
例えば原作そのものの権利がほしいのか、映画をリメイクしたいのか。そういった視点を踏まえると、交渉先としての選択肢は「原作者」だけではなく「映画制作会社」「玩具メーカー」「出版社」など、無数に現れてくるのだ。

ここで重要になってくるのが、『チェーン・オブ・タイトル(権利の鎖)』である。原作が発表されて以後、書籍化や映像化、玩具などのあらゆるメディア・商品、交渉の成否に至るまで、あらゆる権利移転の履歴が記録されている『チェーン・オブ・タイトル』が日本ではいまだ十分に整備されていないために、アメリカ側では自国での公開を諦めたタイトルもあるという。権利保持者が明らかでない場合、訴訟問題などに発展する危険性があるからだ。

マイケル氏の話によると、世界で注目を浴びた映画『グリーン・デスティニー』を制作した15年ほど前の香港はアジアのハリウッドであった。当時は『チェーン・オブ・タイトル』も整理されていなかったが、ゆるやかな合意の形成によってコンテンツは成り立ち、対立や訴訟問題などには発展することはなかった。
だが、今や国際的なタイトルには『チェーン・オブ・タイトル』の整理は必要だと説く。日本でも原作の権利保持者が誰であるのかを容易に特定できるよう、制度を確立させる方向に行くべきだと語る。製作委員会などの方式で出資社が複数いる場合も、一人の人間にライセンス契約の交渉権を預けるべきだと述べた。

■ IPコントロール

質疑応答では、「IPコントロールを原作サイドは維持できるのか」という質問が会場から投げかけられた。IPとはIntellectual Property=知的財産権のことである。原作の“改悪”といった事態に対して原作者がストップをかけられるのかどうかという点で議論が展開された。
この問題は例えば『GODZILLA(1998年)』や『DRAGONBALL EVOLUTION(2002年)』といったハリウッドで製作されたタイトルを思い浮かべるとわかりやすいだろう。制作状況を見た原作者が途中でストップをかけることができるのか、原作者の意向に沿ったストーリーテリングに描き直すことができるのかどうか、といったことである。
ルーカス氏は「NO」と述べた。仮に原作者が世界的に有名なクリエイターだとしても、口を出すような契約にしてしまえば途端に売れにくくなってしまう。ビジネスの観点から、口を出すのは得策ではないということだ。
これにはマイケル氏 も同意見を寄せており、IPコントロールは原作サイドは不可能であると述べた。ただひとつ、意見を通すのならば当事者になるという方法もある、と加えた。つまり共同出資者(パートナー)になるのである。
しかし、だからといってやはり制作現場に口を出すのはふさわしくないだろう、と寺田氏は語った。

■シュリンクしていく日本市場

最後に照井氏は、日本国内だけのマーケットで今後も続けていくことは困難だろうと予測した。少子化問題なども大きな要因となる。そのため、作品そのものに“世界へ売るための条件づけ”をしていく必要があると説いた。

これらの議論はアニメ市場にも当てはまるものである。製作委員会方式で作品を発表していく中で、複雑化していく権利関係を今一度洗い直し、世界マーケットに乗り出す備えは今からでも整えておいて早すぎるということはないだろう。この先10年、20年とコンテンツを続けていくために、様々な国が交渉の席に着きやすいような入口を用意しておくことは、日本の市場拡大にとっても十分利益になるはずである。
今年、公開されたハリウッド作品『GODZILLA ゴジラ』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル(原題:Edge of Tomorrow、別題:Live Die Repeat)』といった、日本原作であり、尚かつ評価も高い作品が今後も数多く海外で映像化されることを期待したい。

海外での映像化の道、パネルディスカッション「原作と契約」@TIFFCOMレポート
海外での映像化の道、パネルディスカッション「原作と契約」@TIFFCOMレポート

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